臨床研究について

基礎知識

Regulationの理解と倫理審査

 
ヘルシンキ宣言 10. に人間を対象とする研究に関する自国の倫理(ethical)、法律(legal)、規制上の(regulatory)規範(norms)ならびに基準(standards)を考慮しなければならないとあります。また、同 23.には研究計画書は、検討、意見、指導および承認を得るため研究開始前に関連する研究倫理委員会に提出されなければならないとあります。
日本においては、その倫理、法律、規制上の規範ならびに基準(以下「Regulation」)とは、以下の②~⑥の5つの法律・指針を指しています。そして、Regulationごとに定められた研究倫理委員会があり、そこでの研究の審査が必要です。
まずそれぞれがどのような臨床研究に適応されるのかを理解しましょう。その上で、自らが計画している研究がどの規範に従うべきなのかを把握しましょう。つまり、それにより計画の立て方や準備すべき事が大きく変わってきます。
なお、どんな研究であろうと、ヘルシンキ宣言には必ず従うようにしてください。

①  医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律

もし医薬品等の製造販売承認を目指している場合には、ある程度決まった作法での臨床試験、すなわち「治験」を行う必要があります[薬機法第14条第3項]。そしてその治験の作法を定めるものがGCP(Good Clinical Practice)省令と略称される、医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令医療機器の臨床試験の実施の基準に関する省令、および再生医療等製品の臨床試験の実施の基準に関する省令、の3つの省令です。
一般に、製造販売承認を直接に受ける製薬企業が主導となって行う治験(「企業治験」)と、患者さんを直接に診察する医師が主導となって行う治験(「医師主導治験」)に大別され、呼び方は違っていますが、やるべきことは全く同じです。
治験を行おうとする際には、医薬品GCP省令第27条(等)に定める「治験審査委員会(IRB; Institutional Review Board)」での審査が必要です。新潟大学の場合は、「新潟大学医歯学総合病院 治験審査委員会」がそれに当たります。
②  臨床研究法
臨床研究法

研究不正の問題などが契機になって、2017年4月から施行されている法律です。次のイ)・ロ)・ハ)・ニ)の条件に全て当てはまる臨床研究をこの法律における「臨床研究」と呼び、法の適応範囲に入れられます。さらにホ)のA)またはB)に当てはまると、「特定臨床研究」として、その研究に一定の法的な義務と、違反した場合の罰則の可能性が発生します。一方、ホ)に該当しない場合は、時に「非特定臨床研究」と呼ばれるものとなり、基本的な義務内容は特定臨床研究と同じですが、それらが努力義務とされ、違反した場合の罰則は発生しません。
 
イ)    その医薬品等の有効性または安全性を明らかにする
※ 何をもって「有効性」「安全性」を明らかにすると呼ぶかは、個々の事例を見る必要があります。
ロ)    医行為を行う
※    当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(平成17年7月26日付、医政発第0726005号厚生労働省医政局長通知)のことを指す、と通知されています(平成30年2月28日医政経発0228第1号厚生労働省医政局経済課長/医政研発0228第1号同研究開発振興課長通知)。
ハ)    介入試験
※    患者さんにとって都度最適な医療を提供しながら、その結果だけを用いる研究を「観察研究」と呼びます。保険診療+常識の範囲内で若干の採血や来院を追加する位であれば「研究による介入」とは見なされない可能性もありますが、基本的には研究計画書で患者さんへの医療行為や患者さんの行動を規定している場合は介入試験と考える方が間違いありません。
ニ)    治験として実施しない
ホ)    研究の対象である医薬品等が
A) まだ製造販売承認を受けていない(未承認)、もしくは製造販売承認を受けた以外の使い方をする場合(適応外)
※ サプリメントのように食品として販売されているものでも、その含有成分の疾病等に対する有効性・安全性を明らかにしようとしているなら、「未承認の医薬品」と扱われる可能性があります。例えば、「市販のグルコサミンサプリに関節痛の症状緩和効果があるかを見る試験」は、該当し得ます。
※ 適応外については、100%添付文書通りの使い方をしているかどうかで決まります。例えば、現場判断で添付文書上の最少用量の半量投与を行っている場合、保険は通ることが多いと思いますが、この法律においては「適応外」です。
B) その医薬品等を製造している企業等から資金提供が有る場合
※ 役務や現物の提供は該当しないことになっています。

細かい規定は、臨床研究法施行規則、または厚生労働省が出している様々な通知に定められています。
臨床研究法上の臨床研究を行おうとする際には、臨床研究法第23条に定める「認定臨床研究審査委員会」での審査が必要です。新潟大学の場合は、「新潟大学中央臨床研究審査委員会(CRB; Central Review Board of Clinical Research)」がそれに当たります。なお多施設共同研究の場合、各施設の認定臨床研究審査委員会で審査・承認を受けるのではなく、1つの「認定臨床研究審査委員会の承認」と各施設(自施設含む)の「病院長の実施許可承認」が必要になります。
③  再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療安全性確保法
再生医療等の安全性の確保等に関する法律

臨床研究の中で、細胞加工物を人に投与する研究・医療を行う場合はこの法律に従います。ただし、再生医療等製品を適応内でのみ用いる場合は対象外、また治験を行う場合は薬機法・GCP省令が優先されます。
再生医療(研究)は、そのリスクによって「第一種」「第二種」「第三種」に分かれます。詳細は厚生労働省の課長通知(医政研発 1031 第1号)をご覧ください。
再生医療(研究)を行おうとする際には、再生医療等安全性確保法第26条に定める「再生医療等委員会」での審査が必要です。新潟大学の場合は、「新潟大学特定認定再生医療等委員会」がそれに当たります。
④  遺伝子治療等臨床研究に関する指針(遺伝子治療等指針)
遺伝子治療等臨床研究に関する指針

疾病の治療や予防を目的として、遺伝子、または遺伝子を導入した細胞等を投与することを「遺伝子治療等」と呼び、遺伝子治療等を研究の中に組み込む場合はこの指針に従います。ただし、治験を行う場合は薬機法・GCP省令が優先されます。
遺伝子治療を伴う研究を行おうとする際には、遺伝子治療等指針第二十に定める倫理審査委員会での審査が必要です。新潟大学では「新潟大学 遺伝子治療臨床研究に関する倫理委員会」がそれに当たります。
⑤  人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(生命科学・医学系指針)
人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針

人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(医学系指針)とヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(ゲノム指針)は、文部科学省、厚生労働省、経済産業省で設置した合同会議における見直しを経て、医学系指針の規定内容を基本とする形で統合され、新たな指針として令和3年6月30日に施行されました。

これまでの①~④のどの法律・指針にも当てはまらなければ、この指針を使うことになります。(ただし、ヒトゲノム・遺伝子の解析を行う研究のうち、医学的に確立されていて診療として実施される解析は対象外、また治験を行う場合は薬機法・GCP省令が優先されます。)これらの研究を行おうとする際には、生命科学・医学系指針第6に定める倫理審査委員会での審査が必要です。新潟大学では、ヒトゲノム・遺伝子の解析を伴う研究は「新潟大学 遺伝子倫理審査委員会」、それ以外の研究は「新潟大学 人を対象とする研究等倫理審査委員会」がそれに当たります。

なお多機関共同研究の場合、原則として、研究代表者が1つの倫理審査委員会に一括した審査を求めることとされています。その後、各機関(自機関含む)の研究機関の長に、実施の許可を受ける必要があります。
⑥  臨床研究でない、あるいは生命科学・医学系指針
いわゆる基礎研究や疫学研究に属する研究は臨床研究の対象外です。ただし、何らかの形で人間を研究の対象にしているなら、⑤と同じ生命科学・医学系指針を遵守する必要があります。
なお、動物実験やその他人間を対象としない研究でも、国や自治体、所属機関のルールや指針があるかもしれませんので、必ず確認してください。
 

研究倫理教育・研修

 
本学においては、研究活動を行う全教職員が何らかの研究倫理教育を受ける必要があります。
 

先進医療と再生医療

先進医療

先進医療とは、国民の選択肢を拡げ、患者負担の増大を防止しつつ利便性を向上するという観点から、未だ保険診療の対象に至らない先進的な医療技術等について、保険診療との併用を認めることとしたものです。
 
ポイント
  • 将来的な保険導入のための評価を行うことが必要な「評価療養」の1つ
  • 厚生労働省の認定を受けた医療技術が対象(令和3年5月1日現在で84種類)
  • 医療技術ごとに設定された一定の基準を満たす医療機関が届出の上で実施可能
  • 先進医療に係る費用については全額患者の自己負担
 
先進医療の分類
分類 定義
先進医療A
  • 未承認、適応外の医薬品、医療機器の使用を伴わない医療技術
  • 未承認、適応外の体外診断薬の使用を伴う医療技術等であって、当該検査薬等の使用による人体への影響が極めて小さいもの
先進医療B
  • 未承認、適応外の医薬品、医療機器の使用を伴う医療技術
  • 未承認、適応外の医薬品、医療機器の使用を伴わない医療技術のうち、特に重点的な観察・評価を要するものと判断されるもの
  

再生医療

再生医療とは、機能障害や機能不全に陥った生体組織・臓器に対し、細胞や人工的な材料を用いて、失われた機能の再生をはかるものであり、これまで有効な治療法のなかった疾患に新しい医療をもたらす可能性があります。

※再生医療等製品の定義(医薬品医療機器等法より)
1 次に掲げる医療又は獣医療に使用されることが目的とされている物のうち、人又は動物の細胞に培養その他の加工を施したもの
 イ 人又は動物の身体の構造又は機能の再建、修復又は形成
 ロ 人又は動物の疾病の治療又は予防
2 人又は動物の疾病の治療に使用されることが目的とされている物のうち、人又は動物の細胞に導入され、これらの体内で発現する遺伝子を含有させたもの
 
ポイント
  • 「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」に従って実施
  • 再生医療等の提供または特定細胞加工物の製造には事前に届出が必要
  • 厚生労働省に承認され、保険適用の再生医療等製品は10種類(令和3年2月現在)

再生医療の分類と手続き
分類 内容 実施に必要な手続き
第1種再生医療等 ヒトに未実施など高リスク
(ES細胞、iPS細胞等)
特定認定再生医療等委員会での審査
+厚生労働大臣に提出
+一定期間(90日)の実施制限期間内に安全性等の確認の上で提供開始
第2種再生医療等 現在実施中など中リスク
(体性幹細胞等)
特定認定再生医療等委員会での審査
+厚生労働大臣に提出
第3種再生医療等 リスクの低いもの
(体細胞を加工等)
認定再生医療等委員会での審査
+厚生労働大臣に提出

トランスレーショナル・リサーチ

 
トランスレーショナル・リサーチ(TR)とは、大学等のアカデミアで基礎研究を重ねて見つけ出された新しい成果(シーズ)を、革新的な医療技術・医薬品等として実用化につなげることを目的として行う、基礎研究から臨床現場への「橋渡し研究」を意味します。
基礎研究が実用化へ至るまでには、長い道のりと様々な手続き、試験とその評価が必要となり、研究者単独で最終目標にたどり着くのは困難です。
臨床研究推進センターでは、TRを行う研究者をサポートするために、シーズ段階での知的財産・開発戦略相談、資金獲得支援から、試験実施の支援、企業へのライセンスアウト、先進医療への移行、薬事承認取得等の最終的な目標達成に向けて、開発段階に応じた支援を行っています。